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× Moon light はじまりのうた 序章 破壊神伝説 第1章 遥かなる時の中で 第2章 掟を破ると言うのなら 第3章 Don't touch me!! |
いつだったか・・・・ とても とても・・・遥か昔 世界は鮮やかに生きていた 罪の色は無く 悪賢い奴等の息遣いも聞こえない でも・・・・・・あの日 全てが変わった 物事の原理は掻き消され 理性が失われる 理由の無い殺生がとめどなく起き 恨みの念は次第に強く強くなり 優しいしらべは消えていく 善が死に 悪が生まれ 我が物顔で闊歩する 天使は悪魔に食い殺されて 世界は罪の色で染まる そのとき世界は死んだのだ それは 哀しみの唄を歌うかの如きLost world ・・・そう 裏切ったのは・・・・ Lost world × Moon light ―――破壊神伝説――― 今こそ信じる者は少ないが、かつてネオピアで、嫌というほど騒がれていた、世にも奇妙な神の伝説。 昔、ネオピアに一人の神がいた。名は破壊神イクリプス。イクリプスは、自分を崇める人間がいないことに不満を抱えていた。何故そうなのか?賢い神ならば、自分を改めるだろう。しかしそこは身勝手な破壊神。イクリプスは世界がいけないと決め付けた。ゼウスが創ったこの世界が間違っているから、誰も自分を崇めないのだと思い込んだ。 イクリプスは、最も確実で、そして最も残酷な手段を選んだ・・・ 世界の破壊。世界の滅亡。いずれ来たるその運命を、自らの手で呼ぼうと思ったのだ。 まず、イクリプスは人間たちの心を乱した。喧嘩をさせ、詐欺師を増やし、革命家や邪教者を多く生み出す。銃や剣など、強力な武器をどんどん殺し屋に使わせた。普通の人間たちにも持たせてやって、一ヶ月もすると、世界は荒れに荒れた。 もう平和の面影はどこにも無く、善は姿を消していた。その様子を空から観察していたイクリプスはにやりとほくそ笑み、言った。 「やはり人間とは、愚かな動物だ」 そして、イクリプスは自らの異形の黒い手を、荒廃した世界に掲げて見せた。 すると、突如世界のあちらこちらで大爆発が巻き起こった。世界に生きていた生き物は、その爆発か、あるいはその凄まじい爆風によって次々となぎ倒され、死んでいった。山も海も川も街も、皆は爆発に飲み込まれて消えていく。 その爆発の原因は、イクリプスが各地の人間たちに振りまいてきた『悪』『罪』が人間たちの感情を取り込んで変質し、爆弾になったことであった。イクリプスが自分の望みどおり、「自らの手で」その爆弾の導火線に火を付けたのだ。 こうして、全てが消えてゆき、世界は終わると思われた。だが、ただ一箇所、悪や罪に毒されていなかった小さな村から、15歳少女の小さな救世主が現れたのだ。彼女の名はセレナといった。 セレナはしばらく、世界中で起こっている悪の大爆発の様子に、村の中心にある『神の樹』と呼ばれる巨大な木の上で険しいまなざしを向けていたが、やがて頭上に広がる曇天を厳しい目つきで見上げ、声の限りに叫んだ。 「イクリプス、いい加減に止めなさい!あなたに世界の再創造は出来ない!世界を破壊したところで、ただ生き物が全滅するだけ。あなたがどんな手段を選ぼうと、誰もあなたを信じない!!」 すると、セレナの声がイクリプスに届いたのか、突然空にいなずまが走り、曇り空が割れて醜い姿のイクリプスが現れたのだ。村人たちは恐怖の悲鳴を上げたが、セレナは至って落ち着いた様子で樹から飛び降り、根元のあたりでイクリプスを待ち構えた。 しばらくして、イクリプスはセレナの前に立ちはだかった。小柄なセレナの100倍はあろうかと思われるほどの巨体を揺らし、その破壊神は叫ぶ。 「セレナ!!今日という今日はけりをつけてやる。我が勝つか、お前が死ぬか!選択肢はそれだけだ!さぁ、掛かってくるがいい!!」 お言葉に甘えて、と小さく呟いて、セレナは動いた―――速い。神であるイクリプスにはかろうじて残像が見えたが、じっと見守っている村の人間たちにはそれさえ見えなかった。セレナはまるで上流の川の流れの如く、しなやかに滑らかでとても素早く動き、彼女の姿を確認するだけで精一杯なイクリプスの無防備な体に拳や蹴りを入れていく。だんだんイクリプスの息はあがってきて、攻撃しなければと焦れば焦るほど自慢の魔術は空振りし、やがてセレナの長髪をもかすりもしなくなった。一方でセレナのほうは、全く疲れたそぶりすら見せずにただ淡々とイクリプスを攻撃し続ける。やがて、最強と自賛していたその破壊神は、ズゥンッととてつもなく大きな地響きの音を響かせて、村の神の樹の前に倒れてしまった。 しかしイクリプスは神ゆえに、死ぬということはまずありえない。しかしこのまま放置しておけば、また悪さをしかねない・・・ジレンマに悩まされたセレナは、ある結論を出した。それを村の仲間たちに説明すると、彼らは一瞬猛反対の声を上げかけたが、セレナの真剣そのものの瞳と立ち上がろうともがく破壊神を交互に見て、考えを改めた様子でしんみりと頷き、了承した。セレナは優しくにっこりと笑うと、また厳しい顔に戻り、イクリプスに向き直ってから曇天を見上げ、祈りを捧げだした。 「我らの母なる天の月よ。我が手に、貴女の力を。この邪なる破壊神に、永久の封印の罰を。どうかこの破壊神を、貴女の樹の中に封印することをお許しください。見返りがどれほど大きなものでも、私たちは喜んで差し出しましょう。どうか、お願いします。この邪神に、永久の苦しみをお与えください!」 祈りは届いたようだった。一陣の優しい風が吹き、空の雲が飛ばされていく。やがて雲は全て消え、美しい星空と、そして青い満月が顔を出した。 満月の放つ聖なる光は、まず破壊神と神の樹を包み、それから広げたセレナの手の中に降り注いだ。彼女の手の中で、月の光は一本の槍の形となり、そしてそれは本物となる。セレナは槍を掲げ、叫んだ。 「邪なる破壊神イクリプスを、いま神の樹に月光槍と共に封印する!」 月光槍と呼ばれたその槍は、ふわりと宙に浮き上がった。それは弧を描いて神の樹に突き刺さったかと思うと、そのまま食い込んで大きな穴を残し、樹の中に入ってしまった。 すると、突然破壊神の体を包む光がひときわ眩しく光り、槍と同じように宙に持ち上げられたかと思うと、神の樹に空いた穴の中へ吸い込まれていったのだ。 そして、神の樹の穴は自然にゆっくりとふさがっていき、やがて消えた。セレナは、破壊神の封印に成功したのだ。 破壊神の力が消えたことが遡及したらしく、世界と人間たちは、もとある平和な姿のままに何事も無かったかのように復活した。しかし、わざとイクリプスがそうしたのか、それとも他の力が影響したのか、何故か人間たちは自分たちを救ってくれたセレナとその村のことを覚えていて、お礼を言おうと人間総出で探したが、何故か見つかることは無かったという。しかも奇妙なことに、情報や、地図上からさえも村は消えていた。セレナとその村は、跡形も無く地上からも記述上からも消えてしまったのだ。 繰り返すが、この伝説は今こそ信じる者は少ない。だから彼女も、友達から深刻な顔であの話を持ち掛けられたとき、相手にしなかったのだ。 「セレナがいた村はね、今のジェラプティクーの姉妹都市にあたる村なの。いつしか地上からも記述上からも消え失せた幻の村、名前はクアロディア。封印は解かれたわ。世界はまた、滅亡の危機にさらされている。伝説に出てくる世界は、ここネオピアだったのよ!」 第一章 遥かなる時の中で 「夢の見すぎよ、ヒメ。あれは単なる子供だましのお話。全く、あたしたちもう16よ?今更何言ってるの、もう。あんたってたまにすごくとぼけたコト言うから。これだから天然って言われるのよ」 「でも、カチュア・・・!!」 「でもじゃないの。ほら、目を覚ましなさいよ」 カチュアと呼ばれた、緑色の長い髪に闇色の瞳をした少女は、ヒメと呼ばれた浅葱色のツインテールに茶色の瞳の少女の頬を両手で挟むようにしてぺちんと叩いた。 ヒメは不機嫌な顔で、ぷぅっと頬を膨らませるとそっぽを向いてしまった。 「本当なのに・・・いまに、世界が滅亡しても知らないんだから」 またおかしな宗教にでもハマッたか、とカチュアは顔をしかめた。昔から ヒメは、様々なことに影響されやすい性格で、挙句に突っ走りがちという結構な問題児であり、幼馴染であるカチュアは何度も彼女の勢いにセーブをかけてきた。 しかし、今度のヒメの目は、誰かに吹き込まれた得体の知れないことを信じる夢見るようなものではなかった。一言で言えば、本気。不安定なことを信じすぎる所為でいつもバランスを崩す彼女の精神が、珍しく安定しているようだった。 (信じるべきだろうか・・・考えてみれば、こんな嘘を言うことで何の得になる?まさか、本当に・・・伝説は真実だったとでも言うのかしら・・・?) カチュアは少しだけ俯いて考えた後、何かを思いついたようにふっと顔を上げて、ヒメにいった。 「もしヒメに、これが絶対に真実だって言う自信があるなら、一緒に確かめに行こう。確かヒメって、この街の地図情報屋にコネがあったよね。聞いてみようよ、そのクアロディアとかいう村の場所を。どうなっているのか、見に行こうじゃないか。ね、そうすればあたしはヒメの言うことを信じるし、あんたはもっと詳しくそのことについて知ることが出来る。どう?」 パァッとヒメが顔を輝かせた。まだ幼い表情すら覗かせるその16歳の少女は、心と体の底からわくわくしているかのように全身を震わせ、きゃあっと歓声を上げた。 「わぁい、ありがとーカチュア!じゃあ早速行こうよ!地図情報屋のオヤジをちょっとばかり脅せば、どんな情報でも吐き出すし!!」 さらりとそんな腹黒い台詞を吐くその無邪気な16歳の少女に、あらためて戦慄したカチュアであった。 「・・・ク、クアロディアでございますか、ヒメ様、少々お待ちくださいませ。ご、ご希望に沿う情報を持ってまいります」 ネオピア・セントラルの片隅にある、知る者ぞ知る隠れた便利地図情報屋「アルファメガバイト」の店内で、強面の店長がヒメの迫力満点の脅しにおびえ、店の奥に消えたところで、カチュアははぁっと薄暗い店内の空気にため息をついた。 「・・・やっぱりココは、虫が好かないわね」 「え、そう?ヒメはすっごく好きだけどなぁ。この重ーい空気なんて特にサイコー。ずーっといたくなっちゃうよ」 にっこりと微笑んでカチュアの呟きに返答するヒメ。カチュアはさらに深いため息をついて、おとなしく店長を待つことにした。 5分ほどして、せかせかと早足で店長が戻ってきた。大小さまざまな巻いた紙を抱えて、2人に向き合うと、埃っぽい床に一番大きな紙を広げる。それは相当古いものではあったが、どうやらネオピアの地図のように見えた。店長は間接の浮き出した細い細い指で、ジェラプティクーと書かれた村を指差す。 「見てお分かりの通り、これがジェラプティクーですね。そして、ここの西に広がる密林を抜けて・・・」 説明しながら、店長はジェラプティクーの絵の上から指を西のほうへと滑らせていき、そしてある一箇所で指を止めた。そこには、たくさんの石造りの建物といくつかの神殿、そして中央に大きな木がある村があった。村の絵の上のあたりにある、消えかかった手書きと思われるかろうじて「クアロディア」と読める文字をなぞりながら、店長は語る。 「・・・こちらがクアロディアになります。ほら、この大きな木が、破壊神伝説に出てくる神樹です。私もね、どれくらい昔の物なのかわからないほど、遥か昔に作られたこの地図を手に入れたとき、ここにクアロディアがあるのを発見して、思わず目を疑ったもんですよ。確かめに行ったわけじゃありませんが、恐らく本当にあると思います。・・・やはり、ここの情報を聞きに来たっていうことは、クアロディアに行って伝説を確かめようってワケですか?いま、破壊神の封印が解かれたって、一部の人間たちで騒がれていますからねぇ」 「そうなのよね。ヒメ、すっごく確かめたかったの。・・・ね、クアロディアに行く上で、何か必要なものはある?」 「水と食料、武器ですね」店長は即答した。 「クアロディアに行くということは、結構な長旅になりますよ。ジェラプティクーまで行くことは安易ですが、それからクアロディアを目指すとなると、肉体的にも精神的にも、かなりつらいでしょう。なんてったって、遥かなる時の中をひっそりと生きてきた幻の村ですからね。そう簡単に探し当てられてしまっては」 「そうね・・・わかったわ。ヒメ!行くわよ。さっさとしたくして、早いとこ確かめに行きましょう!」 「なんだ、カチュアも結構乗り気じゃない。わかってる、行こう!店長さん、ありがとねー!」 「ちょっと待って、この地図を小さくしたもののコピーがありますから、これを持っていってください。頑張ってくださいね、良い旅を。あなたたちからの、この冒険の武勇伝を聞ける時を楽しみに待ってますよ。では、グッドラック!」 店長の声を投げられた地図と一緒に受け取った2人は、にっこりと顔を見合わせて微笑んだ。そしてカチュアは右手を上げ、親指を立てて見せると、ヒメと一緒にくるりときびすを返して去っていった。 冒険は、これからだ。 第2章 掟を破ると言うのなら ・・・カチュアの家。 カチュアとヒメは、いそいそと明日の出発に向けて持ち物の準備をしていた。 明日は冒険への出発ということで、ヒメはカチュアの家に泊まっていくことになっていた。 カチュアは、家中を走り回って食料を集めたり、着替えや薬などをリュックに詰めたりして真面目にやっているが、一方でヒメはバナナを冷蔵庫から取り出すなりじっと何分間も凝視し、「先生、バナナはおやつに入るんですか」などと呟いてみたりして、カチュアに頭を小突かれていた。 「ヒメェ!!あんたやる気あるの!?」 「あ、あるよっ!だってほら、リュックサックもうパンパンだし・・・」 ヒメが言い終わる前に、カチュアはツカツカとテーブルの上に置かれたヒメのリュックサックに歩み寄ると掴み上げる。そしておもむろにジッパーを開けると、さかさまにして数回振った。 ガラガラガラッと凄まじい音を立てて、中から転がりだしてきたのは大量のおもちゃだった。 「「・・・・・・・。」」 二人はそれぞれ違う意味で沈黙した。が、先にその沈黙を破ったのはカチュアであった。 「・・・あんた、ほんとに16・・・?」 「・・・・多分・・・・・。」 「「・・・・・・・・。」」 しばし2人は呆然と見つめ合っていたのだった。 さて、あれから2時間ほどの時間が経ち、ようやく2人の荷物の準備が完了した。ヒメに重いものや大事なものを持たせるのは落としそうなので気が引けたが、カチュアの荷物もいっぱいだったので仕方なく入れた。 もう既に、カチュアははらはらしていた。ヒメはドジッ子なんていうレベルじゃない。普通の人間の物を落とすことに対する注意力を100であらわしたとすれば、ヒメは恐らく20もない。言い出したのはヒメだが、何でこんな連れがいるのだろうと、今更ながらにカチュアは大きくため息をついたのだった。 「なーに落ち込んでんの、カチュア。元気出してよぉ。・・・あ、もしかしてビビッてるのー?」 「なにをっ・・・・!!」 頭に血が昇ったのか、カチュアはくわっと猛獣の如く歯を剥いてヒメに飛び掛ろうとしたが、それは強い力で跳ね返された・・・刹那、ドンッと鈍い衝撃がカチュアの体に走る。無防備だった腹を中心に、じわじわと広がっていく痛みにカチュアは倒れ、悶絶した。涙をためた目で見上げたヒメは、足を肩幅に開いて腰を落とし、両手を組んで前に突き出した、ヒメ流武術「隕石突き」のポーズのまま、にやりと笑ってカチュアを見下ろしていた。 ヒメは、見た目・性格・精神年齢にそぐわない、強力な魔術・武術使いである。 使う魔術は、一般的に「ゼウス魔術」と呼ばれるもの。世界を創造したという大神ゼウスの力を貸してもらい、普通の人間では到底無理なこともやってのける。先ほどカチュアを跳ね返したのはゼウス魔術のバリア。 一方で、使う武術はヒメが全て考え出したもので、「天地裂激武術」、通称「ヒメ流武術」。先ほどカチュアを攻撃した突きの一種「隕石突き」を筆頭に、バックドロップのような投げ技「地倒投げ」、体を高速回転させてカマイタチを生み出し、それで相手を切り刻む「風斬刀」など、個性的で強力な技が100種類以上ある。ヒメの戦闘能力は、攻撃力、守備力、機転、ひらめきなど全て総合して軽く常人の50倍はある。 そんなヒメの攻撃をまともに食らったのなら、常人ならば、悶絶どころでは済まされない。隕石突きを腹にかまされた場合、だいたいは内臓を破壊されて死に至るだろう。しかしカチュアは、もう既に痛みが軽くなってきたらしく、腹をかばいつつもゆっくりと起き上がってくるところだった。 「いたたた・・・・ヒメ、前も言ったでしょ、あたしを使って新技の練習をするのは大いにかまわないわ。でもね、まだ完成していない技を思いっきりかますのだけは勘弁して。いまのホントに痛かった」 「あは、ごめんごめん。でもカチュアのおかげで、隕石突きは完成だよ。これでまた一つ使える技が増えた!」 「・・・まぁ、いいけどさ・・・・・。」 もう察しが付いているとは思うが、カチュアも常人の戦闘能力という訳では決して無い。ヒメが攻撃を得意とするのに対して、カチュアは攻撃はもちろんだが、ずば抜けて守備が堅く、バズーカ砲1発くらいなら耐えることが出来る強靭な体を持っている。 ちなみに武器は傘を使う。「傘!?」と思われるかもしれないが、傘は突きと殴り、そして目くらましなど、意外と様々な面で役に立つ。もうかなり長い間、カチュアは傘を武器として愛用している。 「あー、もう・・・痛かった・・・明日出発するってのに、怪我させないでよねヒメ!」 「まぁまぁ、この隕石突きのおかげで助けられる時が来るかもしれないでしょ?それにさ、カチュアの自然治癒力なら、今から朝まで寝るだけで全快してるんじゃないの?」 「まぁそうだけどさ。今度からは勘弁してよ?」 「はーい!」 ヒメの元気のいい返事に訝しげな目を返したあと、カチュアは寝室に向かうと一足先に眠ってしまった。残されたヒメは、一人で夜中まで新技の開発に勤しんでいた。 次の日の朝・・・ 「ヒメーーー!!起きなさい!!いつまで寝てるつもりなの!?」 カチュアの絶叫が響いてくる。ヒメはまさに寝耳に水、といった様子で不機嫌そうにベッドから起き上がった。 「もー・・・・わかってるよぉ。カチュアってお母さんみたいだね・・・ふぁ~あ」 大きなあくびを一つしてベッドから飛び降りたヒメは、先にリビングへ戻っていってしまったカチュアの後を追った。 ヒメは過去にも、何回かカチュアの家に泊まったことがあった。そのときは、ポストのチェックをするのはヒメの仕事と決まっていたから、その日も彼女は表へ出て、真っ赤なポストを開けると中に入っていたものをつかみ出し、よく確認しないままに家の中にまた戻っていくとリビングのテーブルの上にそれを置いた。そのままソファにどっかりと腰掛けて、少し寝ぼけた声で朝食を作っているカチュアを呼ぶ。かけたエプロンで手を拭きつつキッチンから出てきた彼女は、テーブルの上のものに目を通す。 新聞、銀行からのダイレクト・メール、コスメショップからのセールのお知らせ。毎日のように送られて来るそれらの中に、ひときわ目立つ真っ赤な封筒一つ混じっていた。 「誰からだろう・・・・?」 まず、そっと羊皮紙の封筒を手にとり、裏返す。そこには何も書いていなかった。ヒメも興味深そうに寄ってくる。中から出てきた羊皮紙の便箋に書かれた文章をカチュアが読み上げた。 「『お前たちに告ぐ。クアロディアに行こうなんてバカな考えは捨てるがいい。部外者は村に入れない、入らない、それが掟だ。今まで何人もの人間が、財宝や月神様のお力目当てでクアロディアにやってきたが、そいつらは全員我々が排除した。掟は絶対だ。もしお前らも掟を破ると言うのなら、そのときは・・・覚悟しておけ。お前たちも、捜し求めたものの前で骨になるか?嫌ならば、もう金輪際クアロディアに近づくな。全て忘れてしまえ。さもなくば・・・私たちを殺していくがいい。だがそれがお前たちに出来るかな? 我々に近づくな、愚かな女郎ども。 クアロディアガーディアン代表 リーダー:ルミナ サブリーダー:ネア』」 2人は顔を見合わせた。 一体全体、クアロディアとはどのような村なのだろうか? 第3章 Don't touch me!! さて、カチュアとヒメが、見知らぬ誰かから送り付けられてきた脅迫文におびえ、旅への出発を断念したかというと、そうではない。むしろ、「喧嘩上等」の精神で、2人は俄然やる気を出していた。 「そこまで言うなら、こっちも引き下がるわけには行かないわよね。よーっし、何が何でも調査に行ってやる!考えてみれば、これから世界が滅亡するかもしれないってのに、邪魔する向こうが悪いんだもんね!」 「そうそう!!ヒメ、頑張るよ!ふふふふふ、ヒメたちを脅したことを後悔させてやるからなー!!」 ぐううぅぅぅうううぅうう~~~・・・・・・ バッドタイミングと言うか何と言うか、ヒメがカッコよくビシッと言った直後、2人のお腹が盛大に鳴いた。 「「・・・・・・・・。」」 なんだかとても恥ずかしくなって、カチュアはキッチンへ、ヒメはソファへとそそくさと戻っていったのだった。 カチュア特製の、「元気が出る」朝食を食べ終わった2人は、早速リュックサックを担ぐと、表へ飛び出した。心地よく温かい曇り空。長旅に最適な天気だ。カチュアはポケットからネオピアの地図を取り出すと、クアロディアの場所を探した。やはり、ミステリーアイランドからジェラプティクーを経由していくしかなさそうだ。 「近道は無いわ。行こう、ヒメ。まずはミステリーアイランドを目指さないと。連絡船は何時から出るのかしら?」 ヒメもポケットから一枚の紙切れを取り出した。どうやら時刻表のようだ。彼女は午前8時の欄を見て行き、やがて目を留めた。 「58分。まだ30分近くあるわ。ちょっとヒメにも地図見せてよ」 「え?いいけど・・・・」 ヒメはカチュアから地図を受け取ると、クアロディアを探す。そして現在の地図と比べてみて、ヒメはあれっと声を上げた。 「何、どうしたのヒメ?」 「うん・・・あのさ、ほら、今の地図だとクアロディアがあったのは占い小屋すれすれの位置でさ、海になってるでしょ。それが「地図上からも消えた」ってことなんだろうけど、確か伝説では「地上からも消えた」ってあったよね?そこはどうなんだろう?行っても、何も無いんじゃないかなぁ?」 あ、とカチュアも声を上げた。 「そういえば・・・そうねぇ。えっ、でもいまさら・・・。アルファメガバイト行って聞いてくる?」 ヒメはゆっくり首を横に振った。 「ダメ。今日定休日。オヤジって店に行かないと連絡取れないんだよね・・・どうしよう、困ったなぁ。でも明日に伸ばすと脅迫文にビビッたみたいでプライドが許さないし・・・うーっ、カチュア、どうする?」 「そうだなぁ・・・・とりあえず、行ってみようよ。何も無かったら、引き返してきてまた明日、オヤジに聞きに行けばいい。ほら、そうと決まったら、さっさと行こう。連絡船出ちゃうよ?」 |
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